運営に関する話題については、「裏方の楽典」の方もご覧ください。
13-01. 人間関係は部活の基本
吹奏楽という、集団で一つの物を作り上げるという組織においては、部員同士の人間関係が大事になります。人間関係の崩壊は部活動の崩壊につながります。より良い人間関係の維持というのも、良い音楽を作るための第一歩だということを忘れないでください。
部活の雰囲気は、練習や演奏に大きく影響してきます。特に先輩はこのことをよく理解しておきましょう。
13-02. 後輩への接し方
後輩が上手く吹けないとき「なんでできないの」と怒る前に、考えてみてください。先輩であるあなたは、その後輩にきちんとした練習法を教えてあげてますか?
「後輩が上達しないのは先輩のせい」これは言い過ぎではないと思います(もちろん後輩が練習をさぼっているのなら話は別ですが)。良い練習法を教えるのと同時に、なかなか上達しないと悩む後輩への心のケアも先輩の役目です。がんばってください。
「今週中に3Dのアンブシュアと属七を、インテンポでできるように練習してね」などと、初心者にいきなり過大な課題を与えてはいけません。練習すればできそうな課題(例えば「3Dのアンブシュアの練習を、インテンポの半分のテンポでできるように」など)を一つずつ提示して、できたらほめて(←これ重要)、次の課題(例えば「じゃあ次はテンポを10上げて」など)を与える。これが良い先輩のあり方です。
指導者は「ほめる」ことを忘れがちです。できない所は注意するが、がんばってできるようになった所をほめないと、後輩のやる気は失せてしまいます。自分が後輩だったとき、先輩にほめられたあの喜びを思い出してください。
13-03. 経験者の一年生
中学校の時吹奏楽をやっていて、高校の吹奏楽部に入部してくる、というケースは非常に多いです。こういう経験者の一年生は、ある程度楽器が吹けるので、即戦力となります。
またこういった一年生は、中学校の時の練習法と高校の練習法の違いを見つけることでしょう。「こうやったら上手くいくのになぁ」と心の中では思っていても、一年生という立場からして先輩に言いづらく、不満がたまるという人もいます。
先輩は、こうした一年生とどんどん会話をしていくべきです。「あなたの学校ではどんな練習をしていたの?」「うちの学校の練習で改善すべき点はある?」 など、率直に語り合いましょう。そうすることで、よりよい練習法を見つけだすことができると同時に、経験者の心の負担を解きほぐすことができます。
吹奏楽では人間関係も大事なことです。特に経験者の一年生は、同級生と、また先輩と、よい関係を作っていけるようにしてください。
13-04. 勉強との両立
活発に活動している部活になればなるほど、部活と勉強の両立は問題となってくるでしょう。特に吹奏楽は、全国まで行けば9月~11月ごろまで部活に拘束されるので、受験生にとっては辛いものがあります。「もっと練習して良い演奏がしたい」と思う自分と「勉強やらなきゃ」と焦る自分の間で揺れ動く受験生…。
でも、勉強と部活は切り離して考えるべきではないでしょうか。勉強の時は一生懸命勉強をがんばり、部活の時は部活に集中する。そして部活を引退したら、それまで部活につぎ込んできたがんばりを勉強に向ければよいのです。
よく「勉強との両立ができないので部活をやめたい」という人がいます。でも私は、部活を勉強ができない理由にしてはならないと思います。要は時間をどれだけ上手く使うかです。部活を言い訳にせず、自分の勉強をこつこつこなしていきましょう。
とはいえ、テスト前は数日休みにするなど、部活指導者は部員の勉強時間の事も考えて練習計画を立てましょう。
13-05. 学校での勉強の必要性
部活に熱中するのはいいですが、熱中しすぎて普段の学校での勉強に支障をきたすのは問題です。部活が終わって家に帰ったら、頭を勉強モードに切り替えて、しっかり勉強に励みましょう。「勉強あっての部活動」ということを忘れないようにしましょう。
特に高校では、勉強が不足すると放課後の補習授業が設定されて部活に来られない、ということにもなります。そういう部員が出ないようにしましょう。
13-06. お金がかかる吹奏楽
楽譜の購入や楽器の購入・修理、演奏会を開けばホール費用などなど……、とにかく吹奏楽はお金がかかります。お金の面で余裕があった方が、いい音楽に近付きやすくなることも多いです。
しかし学校から出る予算は限られています。そこでほとんどのバンドは「部費」という形で毎月数千円を部員から集めています。「こんなにがんばっているの で、部費をお願いします」と保護者の理解を得て、ぜひ部費を集めるべきです。集めたお金を元に良い演奏をして、お金を出してくれた保護者に恩返しをしま しょう。
学校から出る予算を増やす一番の方法は「実績をあげる」ことです。どうも学校は、目に見える「結果」がないと動かない傾向があります。夏のコンクール、冬のアンサンブルなどの場で良い賞がもらえたら次の年の予算も増えることでしょう。 これは長期的な対策にしかなりませんが、予算が欲しいバンドはぜひ結果を出しましょう。
13-07. 部活と学校
あくまで部活動は学校活動の一部です。いくら有能な指導者がいても、荒れている学校の吹奏楽部は良い演奏は難しいものです。学級崩壊・校内暴力・飲酒・ 喫煙……などの問題がある学校は、まず部活をする前にそれらの問題を解決しなければなりません。良い演奏は、良い環境が前提となります。
また部員は当然、学校の校則を守らなければなりません。校則を守ることと良い演奏をすることとは一見関係は無いように思えますが、規律が欠けている環境 でよい練習ができるとはあまり思えません。このことをまず部員にしっかりと理解させるとともに、生徒間でも注意できるようにして下さい(上級生が校則違反をするようなバンドは最低です)。例えば、中学校でヘルメット着用が決まっているのならしっかりかぶりましょう。
13-08. 時間厳守
遅刻者が多い、合奏の時間になってもみんな集まらないというように、時間にだらしないバンドは、良い演奏ができるはずがありません。時間厳守は、良いバンドの最低条件です。
例えば休日練習の時「9時集合」と連絡したら、部員全員が遅くとも8時55分にはそろっているようにしましょう。遅刻をする人は、練習を軽視している上に、本番でも時間に遅れてみんなに迷惑をかけることになりかねません。生徒同士で注意しあいましょう。
なお、どうしても遅刻が続く生徒は何か訳があるのかもしれません。話を聞いてみましょう。
13-09. 部内恋愛
他の部活と違い、男女が混在して活動する可能性が大きい吹奏楽においては、部内恋愛も起こり得ます。思春期の男女が一緒にいれば、そういう感情が出てくるのは自然なことであります。
部内恋愛を禁止している団体もあります。これは、部員同士で破局が訪れてしまったり三角関係が発生してしまったりする場合、部活動運営に支障をきたすことを恐れてのことでしょう。
ただ一方で、部内に私的問題を持ち込まない健全な交際なのであれば、私的な事柄まで制約するのは好ましくないとする考え方もあります。こういった様々な考え方を踏まえ、それぞれの団体で検討が必要です。
13-10. 顧問の先生
顧問の先生は音楽の教師(まれに他教科の教師の場合も)として学校に赴任し、その後吹奏楽の指導を頼まれます。そのため、顧問の先生が吹奏楽経験者とは 限りません。もし顧問の先生が吹奏楽未経験者だったら、吹奏楽の事を勉強していただかなければなりません。顧問の先生は、バンドジャーナルを毎月読んだり、定期演奏会に行ったり、吹連が主催する指導者講習会に参加するなどして、吹奏楽指導のノウハウを身に付けて頂ければと思います。
また、「音楽を教えに教師になったのに、課外活動の吹奏楽の指導までやるなんて」という顧問の先生も中にはいます。たしかに夏休みはコンクールでつぶれるし、積極的に活動している部活になればなるほど負担は重くなります。
そこで部員はまず、自分達のために指揮法や吹奏楽の事を勉強してくれて、練習に付き合ってくれる、そんな顧問の先生に感謝をするべきです。ひとりひとり の部員がそういった意識を持つことは大切です。また部員内の問題はなるべく部員内で解決して、顧問の先生に迷惑をかけないようにしましょう。部員の身勝手 な振る舞いは、顧問の先生の負担になるということを理解し、部員ひとりひとりがしっかりとした行動をとれるようにしていきましょう。
さらに、生徒だけでできる練習も多くあります。譜読みは自分たちで進めておいたり、次節で見る学生指揮者を活用したりして、なるべく先生には先生にしかできない全体的な調整をしてもらうという方向の方がいいかもしれません。
◆吹奏楽部の顧問の先生がいない場合
中には、吹奏楽部の顧問の先生がいない(というか、音楽の先生が形だけ顧問になっていて、実際は指導してくれない)場合もあります。例えば音楽の先生がコーラス部の指導をしていたりするケースなどです。
このような場合は、基本的には生徒だけで部活をやっていくことになります。生徒だけで部活をする場合は特に、部長など部活のまとめ役がしっかりしていなければなりません。また同時に、吹奏楽指導の経験が豊富な外部の指導者を頻繁に呼ぶ必要があります。
13-11. 学生指揮者
学校の業務が忙しく、顧問の先生がなかなか部活に付き合えないというバンドもあるでしょう。そういうバンドは「学生指揮者」を設けてはどうでしょう。学 生指揮者は合奏で、各パートがきちんと楽譜通りに吹けているかを確認しておきます。その上で顧問の先生に合奏をしてもらえば、顧問の先生の負担もぐっと減ることでしょう。
学生指揮者の主な仕事は「各パートが楽譜通り吹けているかの確認」です。リズムが間違っていっるパートには指摘をし、アーティキュレーション・ダイナミ クスなどの確認をして、インテンポで曲が通せるようにします。そしてその後の音楽的な味付けは顧問の先生にやってもらいます。
学生指揮者に必要なのは、おおまかな楽典の知識、スコアリーディング法とバンド指導法の知識などです(このサイトの第7章も参考になるでしょう)。ま た、細かいミスを発見する耳の力と神経質さも必要です。学生指揮者はできれば指揮を振れたほうが良いのですが、基礎合奏と同じようにメトロノームで曲を合奏するのでもよいでしょう。
13-12. 先輩と後輩の関係
先輩が威張っているようなバンドは良くありません。後輩のことをよく考えてあげられる先輩になりましょう。一例として、「練習前の準備や、練習後の後片付けは、先輩が率先してやる」ことが挙げられます。面倒なことは後輩任せ、という先輩は良くありません。後輩に「こんな先輩になりたい」と思わせるような行動をしましょう。それが良い演奏へとつながっていきます。
また、部活動運営については主に3年生が決めるというバンドもありますが、その場合でも1・2年生の意見を無視するのはよくないでしょう。先輩は、後輩の意見もよく聞きたいものです。
13-13. 練習時間
良い演奏をするためには、ある程度長い練習時間が必要となってきます。もちろん時間だけ長くて内容が無い練習では意味がありませんが、この機会に一度練習時間が適切か見直してみてはどうでしょう。
まず平日ですが、起こりうる問題として「(学校の方針で)下校時刻が早くて、遅くまで練習できない」というものがあります。顧問の先生に学校関係者と話し合ってもらい、なんとか時間をのばせればよいのですが、どうしてもダメなら朝練をするなど、対策は必要です。
また、冬になって「オフシーズンだから」と練習時間を短くするのは好ましくありません。冬は行事が少ない分、基礎力をみがける重要な時期です。冬の時期も、ある程度の練習は確保したいものです。
また土曜日曜など休日の練習についてですが、これはそのバンドの活動状況によって異なりますので、ここでは述べません。
もちろん、コンクール前には一日練習となるバンドも多いでしょう。しかし私はここで「コンクール前だけ一生懸命やっても、良い演奏は期待できない」と 強調しておきます。コンクール直前の夏休みは一日中練習するのに、冬になると練習がほとんどないようなバンドに、果たして良い演奏は期待できるのでしょう か。冬の間に基礎練習と、個人の実力アップが期待できるアンサンブルをまじめに取り組んだバンドは、来年のコンクールも期待できます。冬だからと、練習時間を極端に減らすのは避けたい所です。
13-14. 先輩になったら
三年生が引退し、二年生が最上級生となって部活をまとめていくようになる時期がありますが、この時期は部活動運営にとって重要な時期となります。というのも、三年生が引退したから「羽がのばせる、好き勝手なことしてもいい」と勘違いして、部活を休み始めたり、遅刻し始めたり、部活に出ても遊んでいたりという二年生が出てくる可能性が高くなるからです。
二年生が最上級生になったら、まずは「自分達がしっかりして、後輩たちを引っぱっていく」という意識を二年生全員に持たせることが大事です。一人でも自分勝手な人がいると、部活全体の雰囲気が悪くなり、練習や演奏に大きく影響してきます。部長を中心にして、しっかりとした部活動運営が出来るように、一人一人が協力していける部活にしましょう。
13-15. 楽器がない
これからがんばって活動していこうというバンドにとって一番の障害は、「楽器不足」でしょう。これは、学校からの予算を使って、毎年毎年だんだんと楽器を増やしていくしかありません。しかし、新入部員が急増して楽器が足りないといったときは、早急な対策が求められます。
どうしても楽器が足りないときは「他学校から借りる」という手があります。昔は部員が多かったけど、今は小編成になってしまって楽器が余っているというバンドも、結構あります。そういうバンドを探して、楽器を借りてくるのも一つの方法でしょう。
13-16. 部長
特に部活内のまとまりが必要とされる吹奏楽においては、全体をまとめる部長がとても重要な役割を果たします。はっきり言って部長の仕事はとても過酷です。生徒間のもめ事を解決し、練習計画を立てて、時には先生と生徒との板挟みにあったりします。しかも、部で何か問題が起こったら、責任は部長の所に来てしまいます。部員はこんな部長の苦労を理解して、部長に迷惑をかけないように行動するべきでしょう。
部長はいつでも、自分のことばかりでなく、部活全体のことを見ていなければなりません。また練習計画を立てるときは、常に長期的な視野に立つ必要があり ます。そういった意味で、部長はかなり高度な仕事を要求されます。時には副部長や後輩とも話し合ったりしながら、よりよい部活を目指していきましょう。
なお部長一人では負担が大きくなりますので、部内の組織体制を構築し全員で協力していけるようにすることが必要です。この点は「裏方の楽典」をご覧ください。
13-17. 部活の欠席
家庭の事情や、塾、通院等で部活を欠席しなければならない場合があります。そのようなはっきりした理由があるときは欠席してもらっても構いません。しかし吹奏楽の練習は「全員参加」が基本ですから、なるべく欠席者は減らしたいものです。
そのためにはまず、塾や通院は、部活とかぶらない時間に設定してもらい、なるべく部活に出てもらうようにしましょう。また、部員の間に「なんとかして部 活は出席しよう」という空気を作ることも大事です。各個人の事情はあるでしょうが、吹奏楽は1人休んだだけでも部員何十人に影響が出てしまいます。このこ とを各自にしっかり意識させましょう。
冬になると「カゼで欠席」という人も現れます。しかし「体調管理も実力のうち」です。不規則な生活をして体を壊し、結果として部活に迷惑をかけるのはいけません。部員一人一人に「自分だけの体ではない」ということを自覚させ、体調管理をしっかりさせましょう。
13-18. セクハラ・パワハラ
顧問の先生から生徒に対し、また先輩から後輩に対し、セクハラやパワハラ等をしてしまう…という可能性があります。
セクハラについては、あくまで相手の感じ方次第でセクハラと認定されます。自分はいいと思った行為も相手は不快に思うかもしれず、普段の行動を省みることが必要です。
またパワハラと指導の境界線は難しいものがありますが、指摘・指導を行う際は、あくまで対象となる行為について指摘・指導を行い、対象者の人格の否定、団体内の立場の差を利用した嫌がらせ等は決して行ってはなりません。顧問や上級生はこのことを普段からよく理解しておく必要があります。
13-19. 部活を辞めたい…
毎年何人か「部活を辞めたい」という人が出るかもしれません。その場合、まずは先輩が説得を試みて下さい。1人いなくなっただけでも大きな痛手な場合は特に、退部者はなるべく出したくないものです。
しかし、退部希望者を強引に部活に留まらせてはいけません。部活は辞めなかったものの、その後もやる気がなく、部活を休みがちになってしまうのでは意味 がありません。部活を辞めるかどうかは、最終的には本人の意志の問題になりますので、無理に部活にとどめようとしない方がよいでしょう。
いわゆる「幽霊部員」の存在は、部活動運営にとって大きなマイナスとなります。たまにしか部活に来ないという人がいたら、すぐにその理由を聞き、部活にちゃんと毎日でるか、もしくは辞めるかを、早急に決めさせるべきでしょう。
13-20. 様々な係
この節については「裏方の楽典」をご覧ください。
13-21. 進学校の吹奏楽
いわゆる「進学校」と呼ばれる、大学進学に力を入れている高校は、まず「一体いつ練習したらいいんだ…」という悩みがあるかと思います。毎日のように早朝・放課後に課外授業が設定されていたり、毎週土日は模擬試験があったり、膨大な量の課題(宿題)が出されたり…と、なかなか大変です。下手をすれば週に2~3回しか部活ができないといった団体もあるでしょう。
しかしそんな進学校でも、活発に活動しているバンドはもちろんあります。練習時間が少ない分、しっかりと練習計画を立てて効率の良い練習をしていきます。
とは言えども、大会日程が他部活よりかなり遅い吹奏楽は、受験生にとって辛いものがあります。年代により異なりますが、高校の部の全国大会が11月に行われることもあります。 11月といえば、もう推薦入試がどんどん始まっている時期です(それどころかAO入試は9月ごろから始まる大学もあります)。
指摘・指導を行う際は、あくまで対象となる行為について指摘・指導を行い、対象者の人格の否定、団体内の立場の差を利用した嫌がらせ等は決して行ってはならない。
運営に関する話題については、「裏方の楽典」の方もご覧ください。